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差押さえ禁止財産とは

借金問題全般 弁護士 石田直也

「差押さえ」とは

一般的に、差押えとは、特定の有体物又は権利について、国家権力によって強制的に拘束することを言います。
差押えについては、刑事事件や行政事件においてもなされます(証拠の差押え、国税滞納者の財産の差押え等)が、民事事件(民事執行分野)における「差押え」とは、「債権者が債務者所有の特定の財産に対して金銭執行ないし担保執行をなすにあたり、執行機関があらかじめ当該財産の処分権能を債務者から剝奪し、その旨を公示すること」をいうとされています。

差押えに関連して、「民事執行」や「強制執行」といった類似の用語がありますが、民事執行のうち、確定判決の内容を実現する手続が「強制執行」であり、強制執行手続の一環が「差押え」と理解できます。

差押えは「債務者」から「財産の処分権能」を「剥奪」するものですから、債務者の財産が差押えの対象ということになります。
もっとも、債務者が債権者に対し給付をしなければならないにもかかわらず、給付をしないために、差押えをするとしても、債務者の最低限度の生活を送る権利を債権者(あるいは執行機関)が奪うことは認められない以上、債務者が所有する財産の全てが差押えの対象になるわけではありません。
債務者の所有する財産のうち、人権保障、あるいは政策上の理由から、差し押さえることが不可能な財産というものが、法律上、いくつか想定されています。このような財産を、差押禁止財産と言います。差押禁止財産は、差押えの対象となりません(=債務者の責任財産を構成しません)。

差押禁止財産の種類

差押え禁止財産は法定されており、差押禁止動産(民事執行法(以下略)131条)差押禁止債権(152条)とがあります。
なお、価額を超過して差し押さえることや、差押えによる剰余が生じる見込みがないにもかかわらず差し押さえることは、法律上禁止されています(128条・129条)。

どのような財産が差し押さえできないのか、具体的に見ていきましょう。

差押禁止動産

物(動産)については、債務者等の生活に必要不可欠な財産だけでなく、信教・宗教、プライバシー、教育などへの配慮から、差押えが禁止されている物もあります。
差押禁止動産の差押えに対して、債務者は執行異議(11条)を申し立てることができます。

民事執行法131条では、以下の物(動産)を差し押さえすることができないと規定されています。

【民事執行法131条】
次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
1号:債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具

責任財産を定義づけると、「総債権者に対する債務のための引当てとなる財産」をなります。
優先的に弁済を受ける権利を有する債権者は、責任財産に基づき、一般債権者間では債権者平等原則に従いつつ、責任財産を債務の引当てとします。

2号:債務者等の1月間の生活に必要な食料及び燃料

「債務者等の生活に欠くことができない」ものとして、具体的には、整理タンス、ベッド、調理器具、食器棚、食卓セット、冷暖房器具・エアコン、衣類、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、ポット、テレビ、ラジオ、掃除機、ビデオデッキ、パソコン、鏡台等が考えられます。
もっとも、上述のような日用品が複数ある場合や、1つしかないとしても高価なものである場合は、差し押さえることができる場合もあります。従って、個別事案の具体的事情に応じて異なることもあります。

3号:標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭

民事執行法施行法1条によると、「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」は、66万円以下の金銭を言うとされています。従って、66万円以下の金銭は、原則差し押さえることができないということになります。

4号:主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物

補聴器、車いす、眼鏡、松葉杖等がこれに当たります。

5号:主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物

具体例としては、以下のようなものがあります。

・国民年金・厚生年金などの各種年金の受給権(国民年金法24条、厚生年金保険法41条1項)
・保険給付受給権(健康保険法61条)
・失業等給付受給権(雇用保険法11条)
・生活保護受給権(生活保護法58条)
・児童手当受給権(児童手当法15条)
・補償を受ける権利(労働基準法83条2項)

このように、債務者等の生活や福祉のために支給される公的給付については、個別法で差押えが禁じられていることがあります。

6号:技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前2号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)

民事執行法施行令2条で規定されています。以下のようになっています。

・支払期が毎月の場合:33万円
・支払期が毎半月の場合:16.5万円
・支払期が毎旬の場合:11万円
・支払期が月の整数倍の期間毎の場合:33万円に当該倍数を乗じた額
・支払期が毎日:1万1千円
・支払期がその他の期間をもって定められている場合:1万1千円に日数を乗じた額

7号:実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの

8号:仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物

9号:債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類

10号:債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物

11号:債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具

12号:発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの

13号:債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物

14号:建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品

差押禁止動産については、131条で規定されているものの、各号の根拠(=なぜ差し押さえてはいけないのか)については、一律とはなっていません。
1号~3号と13号は、債務者とその家族らの生活保障を根拠としていますが、4~6号は、債務者の個人的生業の維持、7~11号は、私的専用物の確保、12号は精神的創造活動の保護を根拠としています。もっとも、これらの基準は社会経済状況に応じて決定されることもあります。

差押禁止債権

 また、民事執行法の他にも、個別の法律により差し押さえが禁止されている債権・財産もあります。

【152条】
[1項]
次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。

・1号:債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権

・2号:給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権

[2項]
退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の4分の3に相当する部分は、差し押さえてはならない。

[3項]
債権者が前条第1項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前2項の規定の適用については、前2項中「4分の3」とあるのは、「2分の1」とする。

 債権者の債権回収の利益との調整を図りつつ、債務者やその家族等の生活を保障することが要求されます。「支払期に受けるべき給付」とは、給与等の名目額ではなく、源泉徴収される所得税、住民税、社会保険料を差し引いた手取額(給与額面額から所得税をはじめとする税金や、社会保険などの保険料等を控除した額)を言います。
差押禁止債権の範囲は、個別事案の具体的事情に応じて変更することがあります。

差押禁止“不動産”

 不動産については、差押さえ禁止の条文が用意されていません。
そのため、少額の債権に基づいて不動産を差し押さえることはできますし、当該不動産が債務者にとって必要であったとしても、差押さえることもあります。
もっとも、不動産についても特別法によって差押えが禁じられている場合があります。
宗教法人法83条では、宗教法人の「礼拝の用に供する建物及びその敷地」についてその旨の登記がある場合には、登記後に発生した債権による差押えを禁じています。また、航海中の船舶について差押えを禁じる法律もあります(商法689条参照)。

差押禁止財産の範囲を変更

生活保護費や国民年金・厚生年金は、原則として差押禁止財産ですが、これらの公的年金が預金口座に入金された時点で、年金や差押え禁止の範囲内の給与などであっても単純な「預金」扱いとなってしまう為、差押え対象になってしまうことがあります。
預金口座に入金されたお金は、それが差押禁止債権か見分けがつかない為、預金に対して差押えが行われた場合、その時点で振り込まれていたお金がまとめて差し押さえられるケースがあるためです。
預金の差押えには上限額がないので、その月の生活費をすべて差し押さえられてしまう可能性もあり、注意が必要です。

差押禁止債権の差押えを受けてしまった場合、裁判所に「差押禁止債権の範囲変更申立て」を行えば、差押えを解除してもらえる可能性があります。(民事執行法第153条)

『差押禁止債権の範囲変更の申立て』ができる期間

債務者が差押命令正本を受け取った後、
・借金などが原因の差押えの場合は、4週間以内
・養育費が原因の差押えの場合は、1週間以内
(※申立てが2020年4月1日以降の場合)

差押さえ可能な財産

では、差押さえ禁止財産とは逆にどういったものが差押さえ可能なのでしょうか。
差押さえを受けるおそれがある財産の中でも代表的なのは「不動産」「動産」「自動車」「債権(特に預貯金債権・給与債権)」の4つです。

不動産

主に土地や建物などで不動産は財産的な価値も高く、差押さえの対象となります。
複数人で不動産を共有している場合には、共有部分に限り差押さえを受けます。
しかし、債権の回収の見込みがない場合も多く、債権額が高額かつ不動産に十分な価値があるような場合にしか不動産の差押さえはされないことが多いです。

動産

生活に必要な家電や家具を除き、現金や骨とう品、貴金属など動産は差押さえの対象です。

民事執行法122条1項では、以下のものが差押さえ可能な動産として挙げられています。

・民法上の動産(土地及びその定着物以外のもの)
・石灯篭や立木など登記することができない土地の定着物
・1ヶ月以内に収穫することが確実である農作物
・裏書の禁止されていない有価証券(株券、手形、小切手など)

66万円以下の現金は差押えが禁止されているので、66万円を超える現金、車、貴金属等が差押え可能な財産に該当します。

自動車

債務者の生活に必要不可欠な場合を除き、自動車も差押さえの対象となっています。
差押さえの手続きは通常の動産執行とは異なります。

債権

債務者が第三者(第三債務者)に対して有する債権のうち、次の2種類は、差押えの対象です(民事執行法143条)。
債権の中でも、特に差押えを受けることが多いのが、預貯金債権と給与債権です。

まとめ

借金などの支払を滞納して裁判を起こされたような場合、そのままでは給料や預金などの財産が、いつ、どのように財産を差し押さえられるか分かりません。
ただし、差押さえがされる場合であっても、全ての財産が差押さえられる訳ではありません。
早めに弁護士に自己破産など債務整理を依頼することで、差押さえを回避できる可能性がありますので、当事務所にお気軽にご相談ください。

この記事の監修者

石田直也

不安な気持ちを抱えている方、お話を聞かせてください。不安な気持ちが解消されるようお手伝いさせていただきます。

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